山口地方裁判所宇部支部 平成11年(ワ)66号 判決 2000年8月24日
原告
甲野太郎
被告
社団法人山口県
公共嘱託登記土地家屋調査士協会
右代表者理事
水津久太郎
右訴訟代理人弁護士
中山修身
主文
一 原告の文書成立の真否確認に係る訴えを却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、平成一一年一月二一日付け公嘱調業指第〇一号の処分を取り消せ。
二 被告は、原告作成の平成一〇年一〇月三〇日付け公共嘱託登記書類作成総括表と題する書面は真正に成立しているとの確認をする。
三 被告は原告に対し、金五四〇万円を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告の社員である原告が、官公署等の依頼を受けて不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査、測量若しくは登記の嘱託手続若しくは申請手続等を行うことを主な業務とする社団法人たる被告に対し、被告が原告に対してした業務配分に関する処分の取消ないし無効確認(請求の趣旨一)、原告作成名義の公共嘱託登記書類作成総括表と題する書面の真否の確認(請求の趣旨二)及び前記処分の違法性を主張して、前記処分の結果別表記載の損害を受けたとして不法行為による損害賠償(請求の趣旨三)を求めた事案である。
被告は、本件各訴えにつきいずれもその却下を求め、予備的に棄却を求めている。
第三 判断
一 証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。(各項末尾に掲げた証拠は当該事実認定に特に用いた証拠である。)
1 (被告の設立目的、業務内容等)
(一) (土地家屋調査士法の改正及び改正理由)
昭和六〇年五月三一日、土地家屋調査士法の一部改正が行われ、官公署等が公共の利益となる事業に関し行う不動産の登記の嘱託手続の適正を図るため、土地家屋調査士を社員とする社団法人がその嘱託等に係る事務を受任してこれを処理することができること並びに当該社団法人の社員、役員及び業務等について規定する関係条文が新設された。
右改正の理由は、官公署等が公共の利益となる事業に関し行う不動産の登記の嘱託又は申請に必要な手続は、その規模、性質等に鑑み、専門的知識、技能を有する土地家屋調査士が組織的に受任して処理することが望ましいが、当時の法律によっては種々の隘路があり、土地家屋調査士がこれらの登記の嘱託等の手続を受任しているのはわずかの部分に過ぎず、これがひいては官公署等のする登記の嘱託等の手続の適正、円滑な処理の目的を十分に果たせないという実情にあったため、土地家屋調査士を社員とする社団法人が当該嘱託等にかかる事務を受任してこれを処理することができるものとする制度を創設することにあった。(乙三、四)
(二) (被告の定款、諸規定等)
被告は右改正後の土地家屋調査士法一七条の六に準拠して設立された社団法人であるところ、その定款及びその他の諸規定の内容のうち、本件に関するものの概要は以下のとおりである。
(1) 定款
第三条(目的)
被告は、官庁、公署その他政令で定める公共の利益となる事業を行う者(以下「官公署等」という。)による不動産の表示に関する登記に必要な調査若しくは測量又はその登記の嘱託若しくは申請の適正かつ迅速な実施に寄与することにより、公共の利益となる事業の成果の速やかな安定を図り、登記に関する手続の円滑な実施に資し、もって不動産に係る国民の権利の明確化に寄与することを目的とする。
第四条(業務)
被告は、前条の目的を達成するため、次の業務を行う。
① 官公署等の依頼を受けて、不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査、測量若しくは、登記の嘱託手続若しくは申請手続又はこれに係る審査請求の手続を行うこと。
第一〇条(除名)
社員が次の各号の一に該当する場合には、総会において、社員の過半数が出席し、出席した社員の四分の三以上の賛成による決議で除名することができる。ただし、その社員に対し、決議の前に弁明の機会を与えなければならない。
① 被告の定款、規則又は総会の決議に違反したとき
② 被告の名誉を傷つけ又は著しい損害を加えたとき
第一二条(業務の処理)
第四条に規定する被告の業務の処理は、総会において別に定める業務処理規則による。
第二九条(理事会の機能)
理事会はこの定款で定めるもののほか、次の事項を決議する。
① 総会に付議すべき事項
② 事業の執行に関する事項
③ 規則の制定又は改廃
④ その他総会の決議を要しない会務の執行に関する事項(甲一)
(2) 業務処理規則(定款一二条による)
第一条(目的)
この規則は、被告がその業務を適正、円滑、迅速に処理するため必要な事項を定め、被告が行う業務の遂行に資することを目的とする。
第二条(責務)
① 被告はその業務の執行に当たっては、土地家屋調査士法を遵守し、山口県土地家屋調査士会(以下「調査士会」という。)と常に緊密な連携を保ち、受けた助言はこれを尊重し、もって本協会の秩序維持に努めなければならない。
② 社員は、被告の定款、規則及び総会の決議を遵守しなければならない。
第三条(業務の取扱い)
社員は、その業務を行うに当たっては、法令、通達及び調査士会の制定する要領等に準拠し、迅速かつ適正に処理しなければならない。
第四条(業務の分掌)
① 被告は、適正に業務を執行するため、次に掲げる部を置く。
総務部、経理部、業務部、事業推進部
第五条(各部の事務)
各部のつかさどる事務は、次のとおりとする。
③ 業務部
ア 受託契約に関する事項
イ 受託報酬に関する事項
ウ 受託業務の配分に関する事項
エ 情報の収集及び伝達に関する事項
第七条(業務の処理)
被告が受託した業務は、社員に処理させることができる。
第八条(配分委員会)
① 被告は、受託した事件を適正に処理するために、被告には配分委員会、各支所には支所配分委員会を置かなければならない。
③ 配分委員会は、国又は県以上の上級官庁より受託した事件を支所配分委員会に配分し、支所配分委員会は、配分委員会より受けた事件並びに支所管内の市町村より受託した事件を社員に配分する。
第九条(配分の原則)
① 事件の配分は公平を原則とし、事件の性質、地域性、社員の実績、事務所の態様を勘案しつつ適正かつ迅速に行わなければならない。
② 配分に当たり、支所配分委員会は社員の業務処理の意志を確認し、期限内処理に万全をつくすよう努めるものとする。
第一一条(事件の配分等)
① 支所配分委員会は、受託した事件が細分化できないときは、複数の社員に共同処理させる配分をすることができる。
共同処理を受けた社員は事件毎に代表責任者を選任するものとする。
② 受託事件の種類若しくは性格から、支所配分委員会が適当と認めるときは、その権限により特定の社員に配分することができる。
第一三条(納入期日)
配分を受けた社員は迅速に業務を処理し、その成果品を指示期日までに納入しなければならない。
第一五条(配分停止及び処分)
① 正当な理由なく期日までに成果品の納入ができないとき又は本規則の条項に違反したときは、その事由の軽重により協会は一定の期間配分を停止することができる。(甲一)
(3) 支部設置規則
第一条(支所)
被告は、社員の業務開発の促進並びに業務処理の効率化及び被告と社員との連絡調整を図るため、理事会の定める次の区域に七支所を置く。
岩国、徳山、防府、山口、萩、宇部、下関
第二条(社員の所属)
前条に規定する各区域内に事務所を有する社員はその支所に属する。
第三条(支所の事務)
支所は、被告及び他の支所との連絡を密にし、当該支所に属する社員の業務開発の促進並びに業務処理の効率化に資するための事務を行う。
第四条(支所長)
① 支所に支所長を置く。
③ 支所長は業務処理規則の配分及び報酬に関する事項につき、当該支所の業務の適正な運用を図るためその業務を行う。(甲一)
2 (原告及び被告の役職者等)
原告は被告の社員たる土地家屋調査士であり、被告宇部支所に所属している。
高杉千河生(以下「高杉」という。)は、被告の社員たる土地家屋調査士であり、本件当時被告宇部支所の支所長であった。
川口寛司は、被告の社員たる土地家屋調査士であり、本件当時被告業務部担当の副理事長兼配分委員長であった。(甲二の1、9、10、甲三ないし五、乙二、証人川口寛司、原告本人)
3 (NTTからの受任案件)
(一) 平成一〇年九月一三日ころ、日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)から、同社所有の建物表示登記申請手続依頼の相談を受けた被告の社員らは、右手続につき、被告宇部支所所属の高杉がNTTから受任し、これを原告を含む被告宇部支所所属の社員たる土地家屋調査士七名が分担して高杉から復委任を受け、納期を同年一〇月末日として申請業務を受任した。
このうち、原告は、建物四棟の表示登記申請手続につき受任したが、受任した業務につき以下の各問題点が存した。
(1) 右手続依頼に際してNTTが原告に交付した書面につき対象となる建物の一部にその所在地番となるべき記載に誤りがあったにもかかわらず、必要な調査をしないまま右書面の記載にしたがって申請書を作成したため登記官の指摘を受けて申請を取り下げた。
(2) 建物表示登記の申請に際しては、建物の図面と各階の平面図を添付する必要があり(不動産登記法九三条二項)、登記実務上、右建物の図面には、方位、敷地の境界、その地番及び隣地の地番を記載して、敷地の形状、建物の位置及び建物の一階の形状を明確にすることを要求されている(同法施行細則四二条ノ六第二項)にもかかわず、必要でかつ容易な調査をしなかったために隣接地番の表示を誤り、又は方位を誤るなどした。
(3) 建物の表示登記の登記事項である床面積(不動産登記法九一条一項三号)の算定方法は、登記実務上、壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積によるべきこと(登記実務上「芯―芯」寸法と呼ばれるもの。)とされている(不動産登記法九二条二項、同法施行令八条、昭和四六年四月一六日民事甲一五二七号民事局長回答)にもかかわらず、原告は右法令、通達に関する知識がなかったため、前記受任業務において、受任した建物の床面積の算定に際し、壁の外面で囲まれた部分の面積(登記実務上「外―外」寸法と呼ばれるもの。)をもって申請を行った。
(4) 建物の表示登記の登記事項である建物の構造(不動産登記法九一条一項三号)は、建物の主たる部分の構成材料、屋根の種類等により区分され、このうち、構成材料による区分として、木造、土蔵、煉瓦造等の区分が定められ、これらのうちには、鉄骨造のほか、軽量鉄骨造も区分されており、登記実務上、鉄骨造とは、種々の鋼材を接合して構成したものであり、軽量鉄骨造とは、厚さ四ミリメートル未満の軽量の鋼材を接合して構成したものとされており(不動産登記法九二条二項、同法施行令七条、不動産登記取扱手続準則一四〇条一項一号ハ)、原告が表示登記申請手続を受任した建物の構造区分が鉄骨造であるにもかかわらず、原告はこれを軽量鉄骨造と表示して申請を行った。
(二) 右(一)(1)又は同(2)の問題により、原告の受任した申請手続のうち三件につき補正が勧告されたことにより、原告はこれを取り下げて再度申請をしようとしたが、納期が遅れる事態となったため、原告と申請手続を受任した他の土地家屋調査士らが協議した結果、高杉と原告間の復委任関係が解かれ、その後の申請業務は高杉が行った。
また、受理された一件についても、右(一)(3)及び同(4)の問題があったため、更正手続が必要な事態となった。(甲五、乙六、七、一五、証人川口、原告本人)
4 (道路公社からの受任案件)
(一) 山口県道公社(以下「道路公社」という。)は、自動車道拡幅工事のため、山口県宇部市大字東岐波字白岸<番地略>の土地(以下「A土地」という。)を分筆のうえ、買収する計画があったが、分筆登記手続に必要な地積測量図作成の前提としてのその隣接関係の確認をし、また、周辺にいわゆる里道またはこれに類する土地が存する可能性があったため、その所在等の確認をする必要が生じた。このため、道路公社は、その事務処理を被告に委任し、被告はこれを受任して右業務を原告に配分した。
(二) ところで、分筆登記手続に要する地積測量図には、その方位、地番、隣接の地番を記載する必要があり(不動産登記法八一条ノ二第二項、同法施行細則四二条ノ四)、原告としては、まず地積測量図作成の前提としてA土地の隣接地の地番を確認する必要があったところ、A土地についてはその周辺の土地を含めて地図、公図等が存在せず、そのため、各隣接地の土地所在図や地積測量図を調査したうえ、現地を調査してその隣接関係の確認をし、さらにいわゆる里道ないしはこれに類する土地の所在を確認するための調査を行うべきであったところ、原告は、各隣接地の土地所在図や地積測量図を調査せず、また、里道の所在確認にも至らなかった。
さらに、前記のとおり、法務局備付の地図が存しない地域にあるA土地の分筆登記申請において、登記官による実地調査を省略(不動産登記事務取扱手続準則八八条但書)し得るようにするためには、登記実務上、分筆対象地の隣接者との間において境界を確認し、その確認書を作成する必要があり、これを登記手続の添付書類として申請する場合には登録印鑑をもって押捺し、その印鑑証明書を添付することとされている(同準則八九条)ところ、原告は、右確認書を一応作成したものの、隣接地所有者として既に死亡した者の名義の署名をその相続人にさせ、あるいは、登録印鑑以外の印鑑をもって押捺させるなどした。
なお、原告は右業務における経費、報酬等を記載した、平成一〇年一〇月三〇日付け被告宛の公共嘱託登記書類作成総括表と題する書面(以下「本件文書」という。)を作成した。(甲二の1ないし11、二〇、乙六、八ないし一三、一五、証人川口)
原告は右の点につき、道路公社からの受任事項は、単に地番の所在調査のみであり、また、境界確認のための隣接地番の土地所有者との間の確認書は、道路公社の内部文書として要求されたものにすぎず、いわゆる里道の所在確認又は分筆登記手続に必要な図面若しくは境界確認書の作成は受任の範囲外であった、道路公社からの受任案件はすべて完了した旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分が存する。
しかしながら、甲第二号証の5、乙第六号証及び証人川口の証言によると、原告の受任業務に関し、嘱託した道路公社から原告に対して調査事項の不備が指摘されていたこと、道路公社から被告に対しても苦情が呈されたことが認められ、これらの事実によると原告の右供述は信用できない。
5 (聴聞手続及び本件処分)
(一) 右のように原告の受任業務に関する処理に問題点があったことから、平成一一年一月八日、山口県土地家屋調査士会から原告に対する事件配分に十分に留意するよう促す旨の書面が送付された。(乙六)
(二) 同月二一日午前一〇時三〇分ころ、被告業務部理事会が開催され、原告に対する聴聞の結果をみて土地家屋調査士としての実務上の能力について確認し、処分を決することが決められ、同日午後一時から、原告に対する業務処理に関する事情の聴取が行われた。事情聴取においては、建物の所在確認の方法、建物の床面積の測定方法、道路公社の案件に関する成果品の内容について質問がなされたところ、原告は、NTTからの受任案件での建物の所在確認につき調査が不十分であったことや、建物の床面積の測定についてはいわゆる「外―外」寸法によるべきである旨回答した。
右事情聴取を終えた後、業務部理事会の構成員において、事情聴取の結果及び道路公社からの受任案件における原告の事務処理の実態からすると、原告の実務処理能力に疑問があるとの結論に至り、公嘱調業指第〇一号の符号をもって業務担当副理事長・配分委員長名による次の内容の処分をすることが決定され、右処分は原告に通知された(以下「本件処分」という。)。
(1) 当分の間、他の社員が代表責任社員となる共同処理事件についてのみ配分する。
(2) 支所業務の円滑処理に資するため、他の社員の助言を尊重し、常に品位を保持し業務に関する法令及び実務に精通することに努めること。(甲三、乙六、証人川口)
6 (本件処分後の経緯)
(一) 本件処分を受けた原告は、同月二五日ころ、川口に宛てて、処分の内容について「思い当たる節もあるので今一度初心に立ち返り、調査測量実施要領の読破、理解に努力する所存である」旨記載したうえで、右処分の具体的内容について照会する旨の文書を作成して送付した。(乙六)
(二) その後原告は本件処分の取消を求める文書を被告に送付したため、同年三月四日に再び原告からの事情聴取を行うこととなったが、事情聴取の席上原告は、主に本件処分の不当性を訴えたため、原告の実務処理能力の向上があったか否かを確認しようとした被告配分委員会の所期の目的が達せられず、本件処分の解除はなされなかった。(乙六、証人川口)
二 本件処分の取消ないし無効を求める訴えについて
1 原告は、本件処分の取り消しを求めるものの、右取消に関する形成原因の主張、立証はない。
2 もっとも、右訴えを本件処分の無効確認と解する余地もあるので、以下検討する。
(一) 自律的な規範を有する団体においては、当該団体の自律的活動が保護されなければならず、原則としてこれに司法権が介入することは相当ではないが、当該処分によって被処分者の一般社会生活上の権利・利益に重大な影響を及ぼす場合には、司法審査の対象となると解すべきであり、その判断においては、当該団体の種類・目的・性格・業務内容、構成員の資格、団体と構成員との関係、当該処分の被処分者に対する影響等を総合考慮すべきであると解される。
(二) 被告は、前記認定のとおり、官公署等からの不動産表示登記嘱託手続に専門的知識を有する土地家屋調査士が関与することによって、公共事業等の円滑迅速な遂行等に資することを目的としており、その性質は公共性の高いものであり、そのため、その業務に関し主務官庁からの必要な調査を受け(土地家屋調査士法一八条、同法施行規則三九条)、また、土地家屋調査士会からの助言を尊重すべき一般的な義務を負う(土地家屋調査士法一七条の九)など、自律的活動に対する介入が法定されている。
また、被告は、同一地方法務局管轄区域内に事務所を有する土地家屋調査士による被告への加入申請に対しては相当の理由がない限り、これを拒否することができないとされ(土地家屋調査士法一七条の六第四項)、被告の内部規則たる業務処理規則においても業務配分については公平の原則が要求されている(同規則九条)ことからして、業務の公平な配分を受けるべき社員の地位は特に尊重されているというべきである。
他方、甲第六、第七号証によると、被告の社員として業務配分を受け、その報酬を得ることは、原告の土地家屋調査士としての業務のうちでも重要な位置を占めていることが認められ、その他、公共嘱託登記以外の受任業務についても被告の社員であることによる社会的信用が重要な要素であると考えられる。したがって、原告が他に空調設備業を営んでいる事実(乙一四の1、2)を考慮しても、被告の社員として業務配分を受ける地位は、原告にとって重要な経済的、社会的利益であることは否定できないから、被告の業務配分に関する制約である本件処分の効力に関する判断は、司法審査の対象になるというべきである。
(三) もっとも、前記のとおり、団体の内部処分の当否の判断については、原則として当該団体の自主的・自律的な判断、解決に委ねるのが相当であり、右の判断・解決が団体の定める手続規定に従って適正になされている以上、それが処分権の濫用にわたり又は裁量権の範囲の逸脱と認められる事情がない限り、裁判所はこれを適正なものとして尊重しなければならないと解すべきである。
(四) 被告の業務処理規則においては、前記のとおり、公平の原則が要求されているものの、他方で、公共性の高い受任業務の適正迅速処理の要請から、配分委員会は、事件の性質、社員の実績等を勘案したうえでの配分をなすこと(同規則九条一項)、配分を受けようとする社員に対して納期内の完了の意志を確認すべきこと(同条二項)などが定められていることからすると、配分委員会には、専門技術的観点から、当該受任業務の規模・難易と社員の能力・遂行意思等とを総合勘案したうえでの配分をなし得る相当広範な裁量的判断が認められていると解すべきである。
(五) 右の点に関し、原告は、被告の定款、規則上、配分委員会には本件処分をなす権限が定められていない旨主張する。
確かに、被告の業務処理規則においては、被告が配分停止をなし得る旨定めた規定(同規則一五条一項)が存し、配分委員会のなし得る処分の具体的内容は規定されていないが、右認定のとおり、配分委員会は、専門技術的観点からの広範な裁量を有しており、具体的な各個の事件をいずれの社員に配分するかの判断のみでなく、各社員の能力に応じて、事前に一般的な条件を付することも、配分停止に至らない限りにおいては、配分委員会の事件配分に関する裁量の範囲内であるというべきであって、本件処分が被告内部の手続規定に違反するものとは認められない。
(六) また、原告は、NTTからの受任案件に関する原告の受任業務は、被告が受任した公共嘱託登記ではないのであるから、これを本件処分の処分理由にすることは不当である旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、NTTからの受任案件における原告の業務処理の態様が聴聞手続を開催することの契機にはなったものの、これを直接の処分理由にしたものではなく、右業務処理過程で問題となった点についての一般的な実務上の知識に関する聴聞を経たうえで、聴聞の結果一般的知識能力が不十分であることを処分理由としたものであるから、右主張は失当である。
(七) さらに、原告は、恣意的な処分である旨主張するが、本件処分内容は原告への配分を停止するものではなく、本件処分によっても他の社員とともに共同受託することにより配分を受け得るものである一方、処分理由は、原告の土地家屋調査士としての実務処理上の基本的知識技能に重大な問題が存したことによるものであることからすると、処分の内容と理由との間に著しく均衡を失するような事情は認められず、他に右処分が濫用にわたることを認めるに足る証拠はない。
原告の主張は理由がないからこれを棄却する。
三 損害賠償請求について
前記認定のとおり、本件処分に手続違背、裁量権の逸脱、濫用にわたる事実は認められないから右処分が違法性を有するとはいえない。
したがって、原告の被告に対する不法行為による損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。
四 文書の真否確認の訴えについて
原告は、本件文書が原告作成にかかるものであることの確認を求めているが、被告は右文書が原告の意思に基づいて真正に成立したことを認めていることからすると、原告の訴えは右確認の利益を欠き、不適法である。
第四 よって、原告の本訴請求のうち、文書の作成の真否の確認を求める訴えは不適法であるからこれを却下し、被告の原告に対する本件処分の取消ないし無効確認を求める請求及び損害賠償を求める請求はいずれも理由がないからこれらを棄却する。
(裁判官・中田幹人)
別表<省略>